まだ幼い、とは言っても、文字を扱えるくらいには成長していた頃、それでも極卒は一人で居ることが多かったように思う。
施設が施設なだけに、彼の周りにはいかめしい表情をした大人たちばかりがいたし、ほんの少し、子供がいたとしても、遠巻きに彼を見るだけで近づくことは無い。
 なので自分から好んでひとりになったわけではく、結果的に、こうなってしまたのだけれど、自分に対して、他の誰もが邪魔をしないので、これはこれで彼に言わせてみれば良い環境だったのだろう。獄卒だって、自分から見てみれば下の者と話す気にもなれなくて、たいていは図書室に閉じこもって本を読んでいた。
 そんな子供だったから、暗くなって消灯時間を過ぎても部屋にいないことがしょっちゅうで、軍の規律を守らず困ったことだと彼の上司は顔に皺を増やしていた。




 ある夜、書斎で、そんな子供であった獄卒が自分の背丈の何倍もある場所の本をじっと見ていることがあった。
 真っ暗な書斎で、こわくないの、言うと、あの本とって下さいと真っ白な指は一際分厚い本を指す。成り立たない会話に眉をひそめると、取ってくれたら帰りますと言う。
 こんな本を読もうとするくらいだから頭のいい子なのだろうが、歯を見せるほどの笑みがぴったりとくっついていて少し気味が悪い。魚の腹のように白い皮膚と相まって、暗闇で見るとまるで幽霊のようである。これが顔見知りでなかったらそこらのホラー映画より怖い。こんな子供がこんな夜中に、一人きりで笑いながら書斎にいるだなんて。
 本を取って、はい、と手渡す。部屋へ帰らそうと手を引くと、そこはやっぱり子供だ。暗くて寒い中、やっぱりひとりで心細かったのか小さな手でぎゅっとしてくれる。手は自分の半分の大きさなのにひんやりしていて、まるで本物の幽霊だと思った。部屋の前までくると獄卒は、本を大事そうに抱えて、ぴょこんと頭を下げてからドアノブを引いた。
 やはりその姿を見ると子供で、そういえば彼の伸長は自分の腰ほどであったことを思い出した。同時に、あんな子供が本ばかり読んでいるなんて、もったいないと思う。精神衛生上良くない。




 彼は極卒という名だと知ったのはそれよりずっと後だったが、あんな子供に、そんな名前、とても似合わない。














まだまだピュアです。




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