紫の、六に対しての主張はだいたいこういったものだった。
馬鹿か。私は面白くなかったら笑わないし、嫌いだったら一緒に居ないよ。
それがなんだい。あんたらしくない、変に深読みなんかして。
あたしが嘘つくような、そこら辺の小娘と同じだと思ってたのかい。
信用できないんだね。
いいよ。あんたがその気だったら出て行ったらいいじゃないか。
一息でそばにいるハニーがなだめるのも聞かず、出て行けと叫びつづける紫に、逃げるようにして六は飛び出した。何がそんなに彼女が怒らせたのか、六にはあまり見当がつかなかったのだが紫はとりあえず謝る暇すら与えてくれない。顔を見れば出て行けの一点張りで、ここまでくると裸足だろうがなんだろうが関係なかった。ばたんと勢い良く閉まったドアに、それでも足りないのかぶつぶつ言いながらハニーが止めるまで紫は塩をドアに向けて撒き続けていた。




その日の六はいつもより元気こそ無かったものの、何倍もべったりとくっついていた。六が紫の真っ白な首筋に顔を埋めると、ぎゃ、と叫んで、エロジジイ、と言う。それでも六が止める様子は無く、いつもは結い上げている紫の髪の柔らかさと滑らかな肌の心地良さを楽しんでいた。女性特有のやわらかさを持ちながら少しひんやりとした皮膚の感触が頬に心地良い。いつまでもそうやって擦り寄っているとくすぐったいよと紫が笑う。
「なんだい。今日は。えらくかわいいじゃないか。」
ごろごろと二人して、布団の中から出ることが出来ない。いいじゃねえかと六が素っ気無いのは口ばかりで、一際強く抱きしめる。
「なあ、紫。」
「なあに。」
「俺はお前が好きだ。」
 珍しいこともあるものだ。あの硬派な六がそんなことを言うなんて、一言で言ってしまえばありえない。 そのせいか紫の頬はさっと赤くなって、六のほうに背を向ける。向けたって、結局六が後ろから抱きすくめてくるのだから結局状況に変わりは無い。
「お前はどうだ。」
「馬鹿だねえ。」
はにかんで、私もさ、と答えた紫を、まだ六は離そうとしなかった。
「本当か。」
「本当だって。」
「無理やり笑ったりしてないか。」
「するわけ、ないじゃないか。」
「俺はお前のことが好きなんだよ。」
「ありがとう。六。」
「俺に合わせて嫌にならないか。」
「いつあたしがあんたに合わせたんだい。」
「お前が好きだ。」
「あんた恥ずかしい男になったね。」
「なあ紫。」
絡み付いてくる六の腕をうっとうしそうに振り解いて、紫はさっと立ち上がる。
「六、今日は本当にどうしちまったんだよ。随分しつこいじゃないか。」
「お前は、俺のこと、本当はどう思ってるんだよ。」
今日何度目かの同じような質問に、磨り減っていた紫の忍耐力がついに底をついた。
「好きだって言ってるだろ!そんなに信じられないのかい!」
そして今に至る。




いったん感情的になるとなかなか治らないのが昔からの癖で、今でも紫はひじをつきながら六への呪いを延々と語っている。
六が帰って来るまでに紫の機嫌はなおるだろうが、それまでこの、手をつけられない妹をどうするべきか。口を聞き飽きたハニーは考えて、結局、ドア付近に山と盛られた塩を片付けようと椅子から立った。














ハヤトあたりに「紫さんは気の強い人ですから無理させてるかも知れませんよ☆」なんて言われたんです。





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